「自分は女の身体に生まれたけれど、本当は男に生まれるべきだったのではないか?」
このようなことを考えた経験がある人は、意外と多いのではないでしょうか。
しかし、実際に女の身でありながら女であることを周囲に隠し
男として生きていくのは、ほとんど不可能であると言えるでしょう。
もちろん、その逆に、男の身でありながら、
男であることを周囲に隠して女として生きていくのも、とても難しいはずです。
ところが、『とりかえ・ばや』では、
平安時代という現代よりも男女の別がはっきり分けられている時代に、女の身を隠して男として生き、
また、男の身を隠して女として生きた2人の男女の姿が描かれています。
今から千年前の平安時代
「藤原丸光(ふじわらの まるみつ)」という上流貴族のもとに
2人の赤子が生まれました。
1人は「東の対屋」に住む「東の上」から生まれた「睡蓮(すいれん)」と呼ばれる男の子
もう1人は「西の対屋」に住む「西の上」から生まれた「沙羅双樹(さらそうじゅ)」と呼ばれる女の子。
違うおなかに宿ったものの
同じ日に生まれた2人は双子のようにそっくりに育ちます。
しかし、この2人が成長していくにつれ、藤原丸光は頭を抱えることが多くなりました。
なぜなら、女の子であるはずの沙羅双樹は男の子のように
男の子であるはずの睡蓮は女の子のように育っていったのです。
最初のうちは、男の子は男の子らしく
女の子は女の子らしく育ってほしいと願っていた藤原丸光ですが
ある事件をきっかけに、それぞれ性別を入れ替えて生きていくことを認めることに。
沙羅双樹も男として生きることを、睡蓮も女として生きることを決意します。
しかし、男として出仕することになった沙羅双樹は
最初のうちこそ楽しそうに働くものの、次第に戸惑いを覚えるように。
女の身でありながら男として出仕することに心細さを感じるようになり
更には、自分は女なのか男なのか、自分の存在自体に不安を抱くようになります。
『とりかえ・ばや』は遠い昔の話
架空の話であるはずなのに
読めば読むほど女でありながら男として生きることの難しさ
男でありながら女として生きることの難しさを
ひしひしと感じさせられます。
今現在、自分の性のあり方に悩んでいるという人はもちろん
ジェンダー論に多少なりとも興味があるという人は、ぜひ『とりかえ・ばや』を手にとってみてください。
古いはずの物語から新しい価値観を得られるかもしれません。