「この世にあるものは全て汚い」。
ドアノブに触れられない。
外で食事ができない。
毎日手袋を外すことができない潔癖症の城谷が出会ったのは
不愛想な心理カウンセラーの黒瀬。
「俺と友達になってください」から始まった潔癖症克服へ向けた個人カウンセリング。
触れられないが故に人を避けてきた城谷の心は
黒瀬との交流を通して徐々に変化の兆しを見せていく。
「今日ずっと、黒瀬くんに触れられることばっかり想像してました」。
ひとつ、ふたつと、出来なかったことが出来るように
触れられなかったものが触れられるようになる城谷。
そして、そんな城谷に黒瀬の歪んだ愛情が向けられ始める。
「潔癖症だから好きになった」。
「気持ち悪い」。
お互いの心が見えない中重ねられた身体に、伝わるぬくもり。
「城谷さんを一番めちゃくちゃにできるのは俺です」。
果たして彼らはこれからどのような未来を選んでいくのか?
繊細なタッチで描かれた美しいキャラクターから醸し出される大人の色気。
透明感を感じさせる城谷に対して、年下ながらも男の色香が漂う黒瀬。
年下×年上、黒髪わんこ×スーツ、S×M、不愛想×おっとり、
カウンセラー×患者と属性好きにはたまらないラインナップが盛りだくさん。
あなたにもぐっとくるポイントがきっと見つかる、そんな作品です。
主人公である城谷はいつもスーツを着ています。
その理由は、手袋が目立たないから。
潔癖症である彼にとって手袋はマストアイテム。
そのため、休日黒瀬と出掛けるときもスーツ姿に手袋が欠かせません。
真面目なスーツ姿の彼が手袋をつけたまま激しく乱れ、涙で顔を濡らす姿は必見です。
一方の黒瀬は、高身長に黒髪不愛想と大人の男を感じさせるクールな風貌。
その彼が熱烈に城谷に迫り、触れ、かき乱します。
「近くに居るのが許されてる限りは
俺、城谷さんに好きになってもらえるように努力しますよ」。
「本当に城谷さんのこと、解ってるのは俺だけです」。
深く人と関わることを避けてきた城谷にとって、
そんな黒瀬の言葉はどれも今まで他人から向けられたことのない言葉ばかり。
テンカウント。
城谷が黒瀬の手帳に書き込んだ、嫌なこと・出来ないこと10個。
ひとつ、ふたつと、そのカウントが減る度に彼らの距離は近づいていきます。
この作品が通常のボーイズラブ作品と一線を画すところは、
ボーイズラブであることを思わず忘れてしまうストーリーの濃厚さ。
潔癖症患者とその裏にある彼らの悩み。
黒瀬との交流から少しずつ明らかになる城谷の幼い頃のトラウマ。
そして、少年時代の黒瀬の後悔。
現代社会の闇を内包した作品ながら
流麗なタッチの作画がそのほの暗さを感じさせない
軽やかな作品へと昇華してくれています。
城谷と黒瀬が心を通わせる過程を見ていると「人として惹かれている」
そのことが読者のココロにすっと伝わり
彼らが触れ合うことに何の違和感も覚えません。
「ボーイズラブ」としてだけでなく、
ひとつの作品として楽しむことができる、そんな魅力に溢れた作品です。
もちろんボーイズラブとしての要素も忘れちゃいけません。
初めての握手、初めてのセックス
そして、初めてのキス。
潔癖症の城谷にとって初めて尽くしの経験は
見ているこちらが恥ずかしくなるほどの初々しさ。
ウブな城谷の可愛い一挙手一投足に、黒瀬も読者もグッと惹きつけられてしまいます。
「好きな人に触れられるあたたかさを思い出したい」そんな瞬間にぜひ読んで欲しい
ピュアで、でもちょっと汚れていて
人と共にある幸せを思い出させてくれる作品です。